サッカーの「才能発掘」に必要な40の特徴と隠れた資質とは?

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「あんなに才能がった選手だったのに、いつの間にか消えていった」、

「不器用で到底プロになんかなれないと思っていたけど、今や有名なプロ選手になった」、

など、この様な選手が皆さんの身近でもいたり、または人づてにそんな選手の話を聞いた事はありませんか?

その差は何なのでしょうか?

もし、これが分かれば「あなたもプロで活躍できる資質を持っている」ことに気づくかもしれません。

よって今回は、世界中のビッグクラブでも未だに試行錯誤している、才能発掘における研究結果を紹介していきます。

1.才能発掘のレシピは存在するのか?

世界中のクラブが次世代のタレントの育成やスカウティングの為に多くの資金を投入しています。

「トップチームに昇格できる若手選手の数を増やす為」、「クラブアイデンティーを保つ為」、「自チームで育成した選手の売却で多くの移籍金を手に入れる為」など、目的はクラブによって異なります。

多くのクラブが目標や野心を持って力を入れる育成ですが、必ずスター選手になれる若いタレントを発掘出来るレシピは世界中を見渡しても、まだどのクラブも持っていないと言えるでしょう。

そのレシピを求め、世界各国で才能発掘の為に色々な試みが行われていますが、ここではイギリスで行われた才能発掘における研究結果を紹介していきます。

今までの才能発掘は主観的に偏っていた

“「才能の発掘では、コーチやスカウトは、純粋に生理学的または物理的な特性よりも、技術的、心理的、認知的な特性にもっと注意を払うべきです」by サイモン・J・ロバーツ

イギリスのサイモン・J・ロバーツ率いる研究チームは多段階のアンケートを元に、才能を見分ける為のポイントを40の特徴にカテゴライズしました。

イングランドとウェールズのパフォーマンス・センターの若い才能のうち、実際にプロサッカー選手になれるのは約10%にすぎない。

ここではいくつかの要因が考えられますが、ユースコーチやスカウトがプロサッカー選手になれる才能を予測するための具体的な基準を欠いているとも考えられます。

ユース選手の身体的特徴だけから将来のパフォーマンスを推測するのは誤りであることが示されているため、タレントスカウトは未だに主観的な評価に頼らざるを得ないことが多い。

さらに、人材の特定と育成は、相対的な不確実性の中で起こる多因子的なプロセスである。

この研究分析は、主にイングランドの若い才能の識別を容易にする事を目的に行われました。”

ディフェンダーは常に背が高く、ストライカーは常に足が速いべき?

“これまで研究者の多くは、ポジションによって、体格の前提条件やフィットネスパフォーマンスに関連性があるかどうかを調査してきました。

研究ではディフェンダーの選手(U9~U19)の方が、中盤の選手やストライカーよりも身長が著しく高く、体重が重いことが注目されていました。

中盤の選手(U9~U15)は、ドリブルや持久力の部分で高いパフォーマンスを発揮しましたし、オフェンスの選手はサイドの選手よりもスピードがあり、機敏でした。

しかし、これらの特徴は非常に一般的なものであり、心理的要因や生物学的成熟度も無視していました。”

「目に見える」基準を用いてより良い育成/スカウティングを

“イングランドとウェールズのパフォーマンスセンター(プロクラブのアカデミー)のコーチやスカウトは、ポジション毎の優れた才能を見極めるために、より「目に見える」基準を必要としています。

そこで、サイモン・J・ロバーツ率いる研究チームは、どの特徴がどのポジションの選手にとって重要な才能を表しているかについて、可能な限りのコンセンサスを得るために多段階のプロセスを用いました。

研究者たちはまず、高位の専門家を選定しました。

その中には、イングランドのプレミアリーグクラブのパフォーマンスセンターのディレクター、イングランドサッカー協会のスカウト、プレミアリーグクラブのスポーツディレクター、UEFA-Bライセンスを持つコーチなどが含まれており、レベルの高いユース選手と日頃から一緒に仕事をしている専門家達です。

最初のステップでは、専門家達が育成年代の才能を示す重要な指標と考えている一般的な特徴をリストアップし、4つのカテゴリー(身体、精神、技術、「隠れた資質」)にその特徴を分類しました。

その後、質問プロセスを経て、リストアップされた126の特徴を、さらに議論を重ね評価していきました。

複数の専門家からあまり共感を受けられなかった特徴はリストから落としていき、最終的には専門家全員が同意できる40の特徴が残りました。”

(一部、DFBアカデミーから引用して日本語へ翻訳“”)

専門家によるトップタレントが持つ40の特徴一覧

その特徴の一覧が下記となりますが、身体、心理、技術、隠れた資質の4つのカテゴリーに分けられます。

身体 : 加速力 / 動作の速さ / 俊敏性 / バランス / フィットネス / 持久力 / パワー / 跳躍力
心理 : アグレッシブ / 予測力 / 勇気 / 自制心 / 集中力 / 判断力 / 意志貫徹 / リーダーシップ / 考える力 / ポジショニング / チームプレー / 物事に対する姿勢 / 未来思考
技術 : ファーストタッチ / 浮き玉パス / セットプレー遂行 / ドリブル / シュート / ヘディング / ミドルシュート / ロングスロー / パス精度 / 守備動作 / タックル / 1対1 / プレッシャー下での技術発揮
隠れた資質 : 適応能力 / 安定力 / ユーティリティ/ 重要な試合で力を発揮出来るか / 練習許容能力 / コミュニケーション能力 / 直観力 / 創造性

この特徴を理解するのは指導者ではなく、スカウトマンだけでいいのではないか?

我々はスカウトマンを雇える様な規模のクラブでもないし、この40の特徴を把握したところで、何もプラスにならないのではないか?と思う方もいるかもしれません。

ただ個人的には、指導者としてこの40の特徴を把握する事で、特に目に見えて分かる特徴(スピードや技術)のみではなく、はっきりと目に見えない特徴(心理、隠れた資質)にも注意が向く様になり、自身が指導する選手の才能を引き出す事が可能になるのではないかと考えています。

特に「心理」と「隠れた資質」のカテゴリーは、見落としがち、または過小評価される特徴ではないでしょうか?

だからこそこの特徴を見抜き、正確に評価する事が出来れば、他のチームと差をつける事も夢ではありません。

2.ドイツ国内でも育成に定評のあるマインツ05での体験談

私自身が実際に体験した、才能の見極めについての話を一つさせて下さい。

ドイツは育成年代であっても選手のチーム移籍が頻繁に行われます。

マインツ05でU12を指導していた時は、年間を通して常に1人〜2人の練習生がチームの練習に参加しており、才能の発掘に力を入れていました。

新しい才能の発掘を進める裏では、チームに所属している選手でも「可能性なし」と評価されれば、シーズン終盤のフィードバックミーティングで次のシーズンもこのチームでプレーする事が出来ないという事を指導者から告げられます。
私が当時U12で指導していたシャベアディ・セティンという選手は、小柄ながらも技術が高く頑張り屋で負けず嫌いでした。

ただ現代のサッカーで必須とされているスピードがない、という理由で次のシーズンからはマインツ05でプレー出来ない事を彼に告げました。当時まだ小学5年生だった彼の涙は未だに忘れられません。

この年齢からこんな残酷な結果を突きつけられるのかと。

それから数年が経ち、なんと彼はU19のドイツ代表にも選出され、長谷部選手や鎌田選手が所属するアイントラハト・フランクフルトでプロ契約を勝ち取りました。現在はトルコ1部のアンカラギュチュでプレーをしています。

冒頭でも述べた様にマインツ05はドイツ国内でも育成に定評があり、アカデミーからトップチームに上がり、活躍をするプロ選手を多く輩出している。

ただシャベアディの才能を見抜く事は出来ませんでした。

一体どこでマインツ05はミスを犯してしまったのでしょう?そのポイントは前途に述べた、「心理」と「隠れた資質」という2つのはっきりと目に見えない特徴にあるのではないかと考えられます。

まとめ:ポジション毎に必要な特徴は何!?

ここまでを振り返って才能に溢れる選手が持つべき40の特徴を把握して、さらにどのポジションで特にどの特徴が必要になるかが明確に分かれば、より的を得た指導/評価を行う事も可能になります。

次回のブログでは、一体どのポジションでどの特徴が特に必要になるの?という疑問に対して、この研究に携わった専門家達が導き出した「ポジション毎に必要な特徴」を紹介していきたいと思います。

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